はじめに
現代のIT環境では、ストレージデバイスの速度と信頼性がシステム全体のパフォーマンスに大きく影響を与えるため、非常に重要です。特に仮想マシン(VM)やデータベースの運用など、ランダムアクセスが頻繁に行われる環境では、従来のHDDや一般的なSSDでは十分なパフォーマンスを発揮できないことがあります。そんな中、Intel Optane 900Pは、独自の技術によって他のストレージを凌駕する性能を提供するため、高負荷な環境でも安定した動作が可能です。
本記事では、Intel Optane 900Pの詳細なベンチマークレビューと共に、その特長や適用分野、他のストレージデバイスとの比較について解説します。また、Intel Optane 900Pがどのようなシナリオで役立つかを具体的に説明します。
また、RamDiskに関する記事過去記載していますので合わせて参考になればと思います。
Windows環境でのRamDiskソフトウエアとパフォーマンス検証
Windows環境でのRamDiskソフトウエアとパフォーマンス検証:各ベンチマークテストの詳細結果
Intel Optaneの導入背景
現行システムの課題
筆者は、日々の作業で仮想マシンを用いたOSの検証や画像処理などを行っています。これらの作業は、高速かつ安定したストレージアクセスを必要とします。従来は、RAM Diskを使用して高速化を図っていましたが、RAM Diskは揮発性メモリであるため、電源をオフにするとデータが失われます。これを回避するために、OSのシャットダウン時にデータをHDDに退避し、起動時に再びHDDからデータを復元する運用をしていました。しかし、このプロセスではHDDの速度がボトルネックとなり、システムの起動やシャットダウンに数分かかっていました。
そのため、高速かつ信頼性の高いストレージを求め、Intel Optane 900Pの導入にすることに至りました。従来のHDDや一般的なSSDでは対応できない部分を補完するため、この高性能ストレージがどれだけのパフォーマンスを発揮するのかに注目しました。
Intel Optane 900Pを選定した理由
Intel Optaneシリーズは、従来のNANDフラッシュ型SSDとは異なる3D XPoint(クロスポイント)技術を採用しており、特にランダムアクセス性能や低レイテンシにおいて他のSSDを大きく上回ります。筆者は、すでにTEMP用ストレージとしてIntel Optane P1600X(118GB)を利用していましたが、RAM Diskが128GBを超えるため容量が不足していました。そこで、今回は容量の大きいIntel Optane 900P 280GBを選定しました。
また、仮想環境やデータベース、ビッグデータ解析など、I/O負荷の高いワークロードにも強く、これらの用途において最適なストレージソリューションと判断しました。
Intel Optane 900P 280GBの特長
1. 3D XPoint技術による高速ランダムアクセス
Intel Optane 900Pは、従来のNAND型SSDと異なる技術で作られており、その中核を担うのが3D XPoint技術です。この技術により、非常に高速なランダムアクセスを実現しています。NANDフラッシュSSDは、大容量データのシーケンシャルアクセスには優れていますが、ランダムアクセスが多い作業では性能が低下することが一般的です。しかし、Intel Optane 900Pは、小さなデータのランダムな読み書きを非常に迅速に処理できるため、仮想マシンやデータベースの運用において大きな利点を発揮します。
2. 極めて低いレイテンシ
ストレージデバイスにおけるレイテンシの低さは、システム全体の応答性に直結します。Intel Optane 900Pは、従来のSSDやHDDと比べて圧倒的に低いレイテンシを実現しており、システムが瞬時に応答します。これにより、仮想マシンの起動時間が短縮されるだけでなく、アプリケーションの起動やファイルの読み込みも高速化されます。特に、ランダムI/Oが多発する環境では、この低レイテンシの恩恵が大きいです。
3. 高耐久性による長寿命
Intel Optane 900Pは、NANDフラッシュに比べて非常に高い書き込み耐久性を有しており、保証は5年間という長期間。NAND型SSDと比べて書き込み耐久性が非常に高く、頻繁なデータ書き込みが求められる作業環境でも安定して使用することができます。従来のSSDは、書き込み回数が限られているため、書き込み頻度が高い作業では劣化が問題となりますが、Intel Optane 900Pは実質それを気にせず、保証は5年間という長期間となっています。
4. PCIe 3.0 x4による高速データ転送
Intel Optane 900Pは、PCIe 3.0 x4インターフェースを使用しており、高帯域幅でのデータ転送が可能です。これにより、特に大容量ファイルの転送やキャッシュ用途においても、高速かつ安定したパフォーマンスを発揮します。この点も、仮想マシンや大規模なデータ処理を行うシステムにおいて非常に有用です。
とは言いつつも最近のNVMeと比べると、単純スループットや容量で負けてしまうところがあったりしますが、長期利用時のスループットの低下がIntel Optane シリーズではほぼ無いのでこちらを選定しました。
Intel Optane 900P 280GBのベンチマーク結果
テスト環境
- 本体:HP Z8 G4 Workstation
- CPU:Intel Xeon(R) Gold 6128 CPU @ 3.40Ghz
- メモリ:768GB DDR4 Registered ECC 2666MHz
- 比較対象ストレージ:Intel Optane 900P 280GB、Intel Optane P1600X、SoftPerfect RAM Disk
- OS:Windows 11 Pro Workstation 64-bit
- ベンチマークツール:CrystalDiskMark
エージングの重要性
Intel Optaneの特徴としてエージングというものがあります。
エージング(aging)とは、特定のコンピュータハードウェア、特にストレージデバイスやバッテリーなどの性能を最大限に引き出すため、一定期間使用することで安定性や性能を最適化するプロセスのことです。ストレージデバイスに関しては、エージングを行うことで、内部のメモリやキャッシュの最適化、コントローラの調整が進み、最終的に安定した最大パフォーマンスを発揮できる状態に到達します。
Intel Optane 900Pにおけるエージングの重要性
Intel Optane 900Pなどのストレージデバイスは、導入してすぐに最大の性能を発揮するわけではありません。特に、Optaneのような高度なストレージ技術では、内部のキャリブレーション(調整プロセス)やキャッシュの最適化が必要です。この最適化には一定の時間がかかり、その間にデバイスの性能は徐々に向上していきます。このプロセスをエージングと呼びます。
エージングが必要な理由
Intel Optane 900Pのような高性能ストレージデバイスは、次のような理由からエージングが必要です。
- メモリセルの安定化:新しいストレージデバイスは、初期段階で使用されると内部のメモリセルが調整される必要があります。エージング期間中に頻繁な読み書きが行われることで、メモリセルが安定し、データの処理が最適化されます。
- キャッシュの最適化:ストレージデバイスは、効率的にデータを処理するために内部キャッシュを活用しています。エージング期間中にキャッシュのパターンが最適化されることで、システムが求めるデータの処理速度が向上します。
- コントローラの調整:ストレージデバイスにはデータのフローを管理するためのコントローラがあります。エージングにより、データの読み書きパターンが学習され、最適なデータフローを実現します。
エージングのプロセスと時間
Intel Optane 900Pに関しては、最低でも3時間のエージングが推奨されています。この期間、ストレージは通電状態で継続して使用されることで、内部の最適化が進みます。この時間が経過すると、ベンチマーク結果にも表れるように、シーケンシャルアクセスやランダムアクセス性能が向上します。
筆者のテストでは、エージング後のパフォーマンスは明らかに向上しており、特にランダムアクセス性能が顕著に改善されていました。初期段階では、エージング前に比べて数%程度の性能向上が見られましたが、長期にわたって使用することで、より安定した性能が得られると考えられます。
エージング後のメリット
エージングを経たIntel Optane 900Pでは、次のようなメリットがあります。
- 最大限のパフォーマンス発揮:ランダムアクセスやシーケンシャルアクセスの速度が向上し、特にI/O負荷の高い環境でパフォーマンスが安定します。
- 信頼性の向上:エージングによってデバイス内部が最適化されることで、長期にわたる安定動作が可能となり、システム全体の信頼性が向上します。
- システム全体のパフォーマンス向上:ストレージのパフォーマンスが向上することで、仮想マシンの起動時間やアプリケーションの応答速度も短縮され、全体の作業効率が高まります。
よって、Intel Optane 900Pのような高性能ストレージデバイスを最大限に活用するためには、エージングのプロセスが欠かせません。初期使用時には最大の性能が発揮されないため、3時間以上の通電時間や通常使用が推奨されます。エージングを経て最適化されたストレージは、長期間にわたり安定した性能を発揮し、仮想マシンやデータベース運用などの負荷の高い作業において特に効果的です。
また、システムのベンチマークを取得する場合は、エージング後に実施しないと本来の性能が引き出されないので注意が必要です。
CrystalDiskMarkによるベンチマーク結果
パラメータ | エージング前 | エージング後 |
---|---|---|
シーケンシャル読み取り (Q8T64) | 2522 MB/s | 2705.19 MB/s |
シーケンシャル読み取り (Q1T64) | 2514 MB/s | 2708.42 MB/s |
ランダム読み取り (4K Q64T64) | 561 MB/s | 561 MB/s |
ランダム読み取り (4K Q1T64) | 567 MB/s | 564 MB/s |
シーケンシャル書き込み(Q8T64) | 2303 MB/s | 2571 MB/s |
シーケンシャルシーケンシャル読み取り (Q1T64) | 2281 MB/s | 2584 MB/s |
ランダムシーケンシャル読み取り (Q64T64) | 41 MB/s | 65 MB/s |
ランダムシーケンシャル読み取り (Q1T64) | 50 MB/s | 73 MB/s |
Crystal Disk Markの詳細結果
Intel Optane 900P エージング前
Intel Optane 900Pエージング後
RAM Diskとの比較
RAM Diskは揮発性メモリを使用しているため、Intel Optane 900Pよりも遥かに高速なデータ転送速度を実現します。たとえば、シーケンシャル読み書き速度は45,000MB/s以上の速度を達成できます。しかし、RAM Diskはデータを保持するために電源を必要とし、電源断時にデータが消失するという欠点があります。Optane 900Pは不揮発性であるため、データを確実に保持できる点が大きな利点です。
また、ランダムアクセス性能においても、Intel Optane 900PはRAM Diskには及ばないものの、SSDやHDDと比べて圧倒的に優れています。頻繁な電源オン・オフを伴う環境や、データの永続性が求められるシナリオにおいて、Intel Optane 900Pの性能が際立ちます。
SoftPerfect RAM Disk(RamDisk)の結果
Intel Optane 900Pの利用シーンと適性
データベース運用やビッグデータ処理
データベースやビッグデータ解析においても、Intel Optane 900Pは非常に有効です。これらの作業では、ランダムアクセスが多発し、データの書き込みや読み取りのスピードが業務全体のパフォーマンスに直結します。Intel Optane 900Pは、こうしたI/O集約型作業において、他のストレージに比べて非常に高いパフォーマンスを発揮します。
高速キャッシュとしての利用
Intel Optane 900Pは、既存のHDDや大容量ストレージの高速キャッシュとしても利用できます。大量のデータを扱うサーバーやワークステーションでは、メインストレージとしてHDDを使用することが一般的ですが、HDDはランダムアクセスが遅く、システム全体のボトルネックとなります。Intel Optane 900Pをキャッシュとして利用することで、頻繁にアクセスされるデータを高速に読み書きできるようになり、システムのパフォーマンスを向上させることが可能です。